【『道を継ぐ』刊行記念対談】〜キャリアに悩んだら、正しさより楽しさを選ぶ!〜
49歳でその生涯を閉じた伝説の美容師・鈴木三枝子さんを描いた『道を継ぐ』(アタシ社)が「私もこんな風に生きたい!」「女友達みんなに読ませたい!」と大反響。なぜいま、女性美容師の生き方がこれほどまで一般の女性に支持を受けているのでしょうか。『道を継ぐ』の著者の佐藤友美さんと、カリスマ的人気を誇る女性美容師さんの対談連載です。
【前編】キャリアに悩んだら、正しさより楽しさを選ぶ!
連載第4回目のゲストは、表参道の人気サロン・UMiTOS代表の砂原由弥さん。美容師として活躍するだけではなく、芸能人を次々と売れっ子に導くヘアメイクとしても知られています。37歳で出産、独立を経験した砂原さんに、女性のキャリアについて聞きました。
「一流の人」に共通する条件とは?
一流の人はつま先の「先っぽ」で立っている
佐藤:砂原さんにお会いするの、とても楽しみにしていました!
砂原:私もです!佐藤さんが書かれた『道を継ぐ』、すごく読み込みました。伝える力が仙人級ですね。
佐藤:仙人ですか(笑)。ありがとうございます!
砂原:鈴木さん(注・『道を継ぐ』の主人公、鈴木三枝子さん)は美容業界のスーパースターじゃないですか。芸能界でいうと、樹木希林さんや吉永小百合さんクラスの方。そんな方をどう書いているのか、興味が尽きませんでした。
佐藤:人気サロンから独立してご主人と美容院を経営されたり、30代後半でお子さんを出産されたり、数多くの芸能人を担当されたりと、鈴木さんと砂原さんは経歴も共通する部分がありますよね。
砂原:私、鈴木さんと同じSHIMA出身なんですよね。あの時代に女性が管理職まで成り上がるのがどれだけ大変なことか、普通の美容師よりも実感できる部分がありまして。本当に一流の中の一流の方だと思います。
佐藤:砂原さんが考える「一流の条件」とはなんなのでしょうか?
砂原:仕事にプライドを持っていることですね。だから諦めることをしないし、いつまでも成長しようとするし、かっこいい。バレリーナみたいな世界かもしれません。つま先の、本当に「先っぽ」で立っている人という印象です。
佐藤:たしかに一流の仕事人ほど見えないところでの努力がすごくて、人前に出るときは優雅ですよね。
相手が一流であるほど「距離感」を間違えない
佐藤:一流といえば、砂原さんがやってらっしゃる映画やテレビのヘアメイクの仕事では、大御所の方と仕事をすることも多いですよね。そういう人たちに対して、砂原さんはどう向き合っているのでしょうか。
砂原:一流の方であればあるほど、その人に合わせて「距離感」を変えるようにしています。一番やってはいけないのが、相手から必要とされていないときに自分をアピールすること。これは逆効果です。自分の時間ではありませんから。
佐藤:なんだかハッとさせられます…。ここを勘違いしている人は多そうですね。
砂原:もちろん必要とされればその分近づきます。相手にとって最も心地よい状態になることを意識して距離を保つんです。だから身だしなみも相手に合わせて変えています。
佐藤:その徹底した距離感が砂原さんが一流の方に指名される理由とも言えるのでしょうね。
砂原:ヘアメイクの仕事はタレントさんに「次も頼んでもらえるかどうか」が評価です。厳しいけれどやりがいのある仕事です。
佐藤:砂原さんが一流の芸能人から何度も指名されるのがよくわかります。
目標が具体的でない人は、だいたいダメになる
佐藤:砂原さんの自己採点、すごく気になるのですが、チャートを見せていただいてもいいですか?
砂原:結構いい得点をつけちゃいました。というのも、今の40代以上が美容師になった時代って、幅広くスキルを網羅していないと生き残っていけなかったんですよね。
佐藤:それ、よくわかります!だから活躍している女性美容師さんって、働く女性に必要な要素をまんべんなく兼ね備えている存在だと私は思っているんですよね。 砂原さんから見て、活躍する人の共通点ってありますか?
砂原:目標が具体的な人ですね。活躍する人ほど、誰の力になりたいか、どういうふうに力になりたいか、どういうことで社会貢献したいか、がはっきりしています。逆に目標が具体的でない人は、たいていダメになります。
佐藤:「頑張ります」だけじゃダメということですね。
砂原:一番になりたいのであれば、どの分野で一番になるのか。たとえば「ファッション誌に掲載される回数で一番になる」「この人の専属スタイリストになる」「顧客数でナンバーワンになる」などと目標を定めないと伸びていかない。
砂原:実は「一番」になれる分野って限りなくいっぱいあるんですよ。だから、具体的な目標を決めることが大事だと思います。
キャリアチェンジの秘訣は「メタモルフォーゼ」
女性のキャリアは「正しさ」より「楽しさ」優先
佐藤:砂原さんは出産を機に独立されたんですよね。
砂原:女性にとって30代は今後の人生を決めていくのに大事な時期で、仕事を取るのか、女性としての道を取るのか悩みますよね。私も出産は37歳でした。
佐藤:いつか産みたいと思っていても、仕事にのめり込んでいるとそのタイミングを逃しやすい。私も35歳の出産だったので、その感覚、よくわかります。
砂原:でも産むのが遅くなると体力的にもきつくなるし、覚悟も必要になる。女性のほうが、悩みが尽きない分、指導も難しく感じます。
佐藤:女性スタッフさんの指導ではどんなことを気をつけてらっしゃいますか?
砂原:女性はホルモンバランスの影響もあって、不安定になりがちです。そこにキャリアの悩みも加わる。極端な話ですが、昨日信じていたものが、今日になったら変わることもあるんです。
佐藤:そういうときはどんなアドバイスを?
砂原:仕事に関しては、私は「正しさよりも楽しさ」を基準にするよう伝えています。楽しさを優先すると自然と努力もできて、目の前の目標から逃げなくなるからです。それを続けた先に、自然と無理なく、キャリアが積み重なっていくんですよ。
佐藤:「正しさよりも楽しさ」。確かに女性にとってはいい指針になりそうです。
女性のキャリアはメタモルフォーゼ
佐藤:仕事とプライベートの両立に関しては、どうアドバイスされますか?
砂原:女性のキャリアはメタモルフォーゼなんですよ。
佐藤:メタモルフォーゼ!?
砂原:そう。「変幻」とか「変身」という意味。女性はさまざまな変化をするときに、キャリアがゼロに戻ってしまうと考えがちです。でも、変化の波に上手に乗れれば、キャリアがゼロになったりしないんです。
佐藤:なるほど。
砂原:変わらなきゃいけないことは「諦める」ことではないんですよね。変化自体を「乗りこなして」いくイメージを持てるといいですよ。
「諦めた」ではなく「このために辞めた」と思えるかどうか
砂原:たとえばプライベートを重視して仕事を辞めたとき「諦めた」という感覚があると、次の一歩が進まないんですよ。
砂原:でも、変化を乗りこなしていく感覚を持っていれば「これは自分が選んだ道だ」と強さや覚悟を持って次に進める。そうなると自尊心が残るんです。女性にとって、これがすごく大事なの。
佐藤:自尊心は自信に直結しますよね。自信を持って次のキャリアを歩んだほうが、間違いなく道は開けるでしょうね。
砂原:たとえば20代のときは主婦になりたくなかったけど、年齢を重ねて「やっぱり結婚して子どもを産みたい」というスタッフがいました。
佐藤:すごくリアルな悩み。
砂原:仕事を諦めるのではなく、それも新しいキャリアと前向きに捉えれば、「最短」で結婚、妊娠できるルートを考えられるようになります。実際、彼女は今後の具体的な目標設定をすることで、とても前向きに退社していきましたね。
佐藤:「仕事を続けられなかった」という罪悪感を持つのではなく「このために辞めた」と思えるかどうか。それが次の進路に全力投入できる秘訣なんですね。
進むべき道は体が教えてくれる
佐藤:最近、若い女性の話を聞いていて感じるのが「選択肢がたくさんあることへの苦しみ」です。昔であれば、親の跡を継げと言われたらその道で頑張るしかなかった。
佐藤:でも今は自分で道を選べてしまうから自分に責任があるし、自分の選択が本当に正しかったのか不安になる。その苦しみと若い人たちは戦ってるんだなと思います。
砂原:私もそう思います。女性は自分の進みたい道と違う道に行ってしまうと、体を壊す人が多いんですよね。特に子宮、頭皮、肌の3つに出る。アトピーになることもありますね。
佐藤:体調の変化は、進むべき道が正しいかどうかを考えるきっかけにもなりますよね。
砂原:同じ「体に出る」でも、魂が喜んでいるときはいいほうの兆候。心が震えているかどうか、魂が揺さぶられるかどうかで自分の道が決まるんだと思います。
佐藤:先ほどの「正しさ」ではなく「楽しさ」を突き詰めなさいという話につながりますよね。自分が進む道に自信を持てたら、覚悟が決まる。
『道を継ぐ』のテーマでもありましたが、「覚悟を持って生きる」ことって、実はこの現代において、苦しいんじゃなくて楽になることなんじゃないかなって思います。
砂原:本当ですね。
(後編に続く)
撮影/中村彰男
プロフィール
砂原由弥(すなはら・よしみ)
UMiTOS代表。都内有名店での勤務を経て、千葉県南房総市に美容室「海と砂原美容室」を、表参道にUMiTOSをオープン。専属の栄養士がスタッフに「まかないランチ」を提供したり、一流百貨店での接客研修を行うなど、食育やユニークな研修を取り入れ、業界内外から注目を集めている。ヘアメイクアップアーティストとしても、ファッション雑誌、美容業界誌、CM、ドラマ、PV、映画祭など多方面に活躍している。
佐藤友美(さとう・ゆみ)
日本初のヘアライター&エディター。ファッション誌やヘアカタログの「髪を変えて変身する企画」で撮影したスタイル数は4万人分を超える。「美容師以上に髪の見せ方を知っている」とプロも認める存在で、セミナーや講演を聞いた美容師はのべ2万人を超え、これは全国の美容師の20人に1人の割合にあたる。著書に7万部突破のベストセラーとなった『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)、発売即重版となった『道を継ぐ』などがある。
『道を継ぐ』とは?
49歳でスキルス胃がんによってその生涯を閉じた伝説の美容師・鈴木三枝子を描いたノンフィクション。今なお人々の心に残り、動かし続ける彼女のメッセージとはどのようなものなのか。1年半の歳月をかけ、191人の関係者に取材を敢行した先にたどり着いた「答え」は、働く女性にとって、強く心に響くものがある。「働き方・生き方を見直すきっかけになった」と、年代・世代を超えて感想が寄せられており、業界を超えて大きな反響を巻き起こしている。
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